「おはようございます、アマリア」


「・・・・え?・・あ、そうだったわね、、、おはよう


城から逃げ地下活動を始めて数ヵ月近くが経とうとしているのだが、
偽名で呼ばれるのも未だに慣れていない様子のアーシェ殿下は返事もどこがぎこちなかった。


「気を張ってらっしゃいますね殿下」

「そんな事は・・・」

「無理もありません、でもいざと云う時でいいのです。お力を抜いてくださいね」


彼女は最近魘されている事が多かった。

それは、護衛を兼ねてこうして殿下と同じ部屋に居るから分かる事。
アーシェ殿下だからこそ、こうして強くいられるのだろうけれど、
彼女の辛さを請け負える程の立場でもないのが傍にいて辛いと感じる。

「殿下」

「何かしら?」

「今日は会議に出られた後はお休みになられた方がいいと思います。
 後のことはウォースラがやってくれますから」









consideration








「―と言う事なの」

「・・・・」

「私も手伝いますから了承して頂けます?」

言ってしまった後に伝えるなど明らかに作為的だ。
しかし彼女が強行するのだからそれなりに根拠があるのだろうとは思うが。

「俺が全て引受ける。は殿下の傍にいてやれ」

「様子は見ているわ」

「頼んだぞ」

「ええ。でも、あなたが大変そうにしていると殿下が余計に不安がってしまうから」

「・・・ああ、分かっている」











は部屋に戻るとアーシェに何かしたいことがあるかと率直に聞いたが、
曖昧な返事を返されてしまった。

かといって何もしないままでいれば、逆に落ち着かないだろうし。


「それならちょっと部屋を変えてみません?」

模様がえするだけで気分もかわるものだ。
ましてこの殺風景で気持ちが暗くなる部屋はどうにも今の殿下には良くない気がした。
せめてもう少し落ち着きのある部屋でなければ。






政策や戦火を話してばかりの殿下といつもしないような会話をしながら、
昼過ぎから手を付け始めて日が傾くまでやっていた。


「殿下、今日はこれ位にしましょうか」

「ええ、そうね」


ソファーに腰開け二人同時にフゥと息を吐いていた。
はそれに対してクスリと笑うと続けてアーシェに話しかける。


「殿下って器用でらっしゃいますね」

「そうかしら」

「何でもこなすから正直驚きました」

「兄弟が多かった影響かもしれないわ」

「じゃあ、負けず嫌いだったりします?」

「そうね。当たり。だからよく皆を困らせたものだわ」

少し遠くを見つめたアーシェの視線。

「あの、殿下」

「・・ん?何」

「私が言うのもおこがましいですが、焦らないで下さいね。必ず好機は訪れます」

「ええ、そうね。ありがとう

「いいえ。では私他の部屋もついでに換えてきます。殿下はゆっくり休んでいてくださいね」

そう言ってテーブルに紅茶を出しアーシェを一人残してそっと部屋を後にした。









部屋全てを片づけながらシーツを換えていく。
しかしあれだけ自室を改装した後に今度は他の部屋もやるとなると以外に疲れを感じた。
少しだけ、とはソファーで休憩を取っているところに丁度、部屋の主が帰ってきた。



、こんな所で何をしているんだ。殿下はどうした」

「部屋にいるわ。でも今日は仕事の話してはダメよお休みなのだから」

「違う、一人にするのはどうかと言っているんだ」

「相手の生活のリズムに合わせるのも必要だから」

「それはそうかも知れないが」

「何かあったの?」

「いや現場を把握してもらう事も必要だろうと思ったんだがな」

「ウォースラが知っているのなら大丈夫よ」

「知る事で不安が減る事もある」

「その逆も然りね。でも今日は言わないであげて欲しいの。
 殿下だって一人になりたい時はあるもの。プライドの高いお方でもあるから・・・」

「確かにそうかもしれんな」

「女の子だもの。尚の事よね」

「ならもその為ににここに居たのか」

「そんな風に見える??掃除したのよ」


言われて見れば出しっぱなしだった書類も整理され机の上に置かれ、
ベッドも丁寧に整えられていた。

「これからどこかに出かけたりするの?」

「いや部屋で報告書をまとめる」

「もう少しだけいてもいい?何なら手伝うけれど」

「余計な気遣いをするな」

「じゃあ、お言葉に甘えますから」




部屋を西日が染め始めは眩しそうに目を細めながら、
ソファーの背もたれに両腕を置きその上に顔を乗せて体を斜めに向ける。



「あの、ウォースラ」

「何だ?」

「ありがと」

重なった目線を小さな笑みをつくり言葉を遮断する。
『少しだけ寝るわ』と話すとは瞼を閉じた。




「・・・・・・・まったく」


がいなくなる定刻まであと僅か。
彼女と夕陽の間を遮るように椅子に腰掛け『仕方がない奴だな』と、穏やかな表情で溜息を吐いた―